ISSUE 1 ビールと、地元。

自分で自分の地元をつくる

東京—瀬戸内を自由に行き来する3人の話

「ないもの探し」から始まった

 写真家の中川正子さんは、東京に加えて岡山に、生活と仕事の拠点を持つことになった。それは東日本大震災と、夫である建築家の弥田俊男さんが岡山に職を得たことがきっかけで、けして自ら強く望んだことではなかった。「都会でいきいきできるタイプの人間だと思っていたので、最初はないもの探しばかり。ちゃんと探しもしないで、『本屋さんがない! ギャラリーがない! 洋服どこで買えばいいの?』って」。だが岡山で出会う人々によって、考えが変わる「岡山では、一人一人の存在感がとても大きくて、実際に街を作ってきた人たちがいる。それに比べて、自分は東京ではただ遊ばせてもらっていたんだなぁと思うようになった」。

 圓藤夫妻と出会ったのも、その頃。あるマルシェで、二人から手作りバターを買ったのが最初だった。「すごい勢いで薦めてくれるの。危うく1kg買っちゃいそうな説得力(笑)」。実は圓藤さんも東京からの移住組。なんでも直島に遊びに行った時に、不思議と戻ってきたような懐かしさを感じて、縁もなかったのに移り住むことになったのだと聞いて、「なに、この直感型! 私がうじうじ考えてたの、バカみたい」と中川さんは笑う。

純粋さは、人を動かす

2012年に岡山で行った展覧会「新世界」の様子

 圓藤夫妻は、管理栄養士である真木子さんを中心に、直島で「APRON CAFE」を営んでいる。「地元の人がすごく気にかけてくださるんです。オープン当初はお客さんが少ないからって足を運んでくれて、だんだん観光客が増えてくると『私らがおると、お客さん入れんから』って、来なくなっちゃって(笑)」。いまでも暇そうな時間を見計らって来てくれると、真木子さんは笑う。

 中川さんもまた、アクションを起こした。岡山で、自作の写真展を開いたのだ。熱意を伝えると、会場を無料で貸してくれる人と知り合った。写真を見てほしい人が集まりそうな店を、フライヤーを持って自分で回った。「コンパクトな街での個人の力の大きさを感じたからこそ、自分でやらなきゃ!と思っていました。いま振り返ると、不思議なほど急き立てられるような強い思いがあったんですよね」。その結果実現した展覧会「新世界」は、この土地での写真展としては異例なほど、多くの人が訪れた。自分たちの住む土地がこんなに美しかったとは、という感想も寄せられた。中川さんは「初めて、街のすみっこに居場所ができた気がした」と、この時のことを思い出す。

世界と直接つながれる

直島をテーマにしたアートがコンセプトの「APRON PAPER」 写真:中川正子

 圓藤夫妻の直感型行動は、さらに続く。ロンドンで活躍するグラフィックデザインチームAbakeに、「カフェのロゴを作ってくれませんか?」とメールを送ったのだ。すると心よく作ってくれたばかりか、なんと直島までやって来て、さらにお店づくりのアドバイスまでしてくれたというのだ。「大好きだという気持ちは、臆せず伝えてみるものです」と曜一さん。
 この出会いはさらにつながり、圓藤さんは、中川さんが撮った直島の写真を、Abakeにデザインを依頼し、アートを紹介するタブロイド紙「APRON PAPER」として発行してしまう。「これってすごいこと! 東京だとずいぶん人混みをかきわけないと、意中のものにたどり着けなかったりするけど、ここだと直接手が届く」。中川さんは続ける。「もちろん幸運は降ってくるわけではないから、二人みたいにグッドバイヴスを持って、動き続ける必要があるわけだけど」。

いつ会ってもかっこいい夫

 現在中川さんは、東京と岡山を頻繁に行き来しながら仕事をしていて、月10日間ほどを岡山で過ごしている。夫とはグーグルカレンダーを共有し、「あ! ●日は会えるね」とまるで恋人同士のようなやりとりをすることも。「これはノロケなんですけど」と前置きして、「会える時間が短いこともあって、彼のいいところばかりが見えるんです。かっこいいな、優しいな、とまじまじと顔を眺めちゃう」。そしてあぁ、と気付いたように声を漏らす。「これって、いまの私と、東京や岡山との距離感にも似ているかも。離れている時間があるからこそ、それぞれのよさがよく分かる。本当に素晴らしい街だなと、どちらのことも思う」。
 ちなみに6歳になる息子さんは、家が複数あることが自慢なのだとか。来年からは、息子さんの小学校入学を契機に、岡山比率がぐっと増す予定だ。

どこへでも、すぐに行こう

「岡山にみんなのベースとなる場所をつくりたい」と中川さん 写真:中川正子

 「今後は、暮らしやすく大好きな人が多く住む岡山をベースに、会いたい人がいるところには、フットワーク軽くすぐ行こうと思っています」という中川さん。近いところでは、瀬戸内国際芸術祭と同じ期間に行われる、「瀬戸内国際写真祭」のクロージングイベントとして、高松の「BOOK MARUTE」で写真展をする予定だ。「東京--岡山を激しく移動しすぎたために、瀬戸内海を渡って香川に行くなんて、もう気軽すぎる感じ」。
 真木子さんは、この取材の前日まで、なんと東京の星付きレストランに、サービスの修行に出ていた。なぜなら、直島という土地柄、お店に世界的に有名な建築家やセレブリティがやってくることも多いから。「もちろん同じサービスは提供できないけれど、知っているのと知らないのとでは意味が違うから」。
 3人の話を聞いていると、大切なのはどこに住むかではなく、何かをしたいと強く思い、実現できるよう力を尽くすか、だと感じてくる。「だって、どこにでもいいところがあるしね?」軽やかな結論だ。

地元の友人とともに
一番搾りはいかがですか?

穏やかな気候が心地よい、晴れの国岡山。今週末は、旭川の河川敷に腰掛け岡山城を見ながらのんびり。そんな時間のお供に、お昼からビールはいかがでしょう。

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